第三十五話
「御法度」
時雨にとって『家』のような存在だった遊郭『影楼』は
今では咲也にとっても帰る場所になっていた。
予想通り旦那と女将が心配そうに待っていて
早とちりした自分の行動を平謝りする咲也。
旦那も女将も反省する咲也に厳しくは咎めて来なかった。
「一条様に二人分の花代を頂いているから
二人ともゆっくり休みなさい」
一条様にもお礼を言って疲れた身体で部屋に戻ると
すぐに布団に倒れこみ
性的ではなく甘えるように
時雨に抱きついて眠りに落ちる咲也。
咲也は疲れ果ていたのだろう
数分と たたずに眠りに落ちた。
幸せそうな咲也の顔を見て
安心したようだが表情は少し硬い。
咲也の寝静まったのを再三確認して
時雨は布団からそっと出る。
咲也の部屋をあとにすれば
旦那が廊下の壁にもたれるように立っていた。
「咲也は…」
「すぐに寝ちゃいました、そりゃ疲れてますからね…」
時雨の表情は咲也の寝顔を思い出したのか少し微笑んで。
「いいのかい…時雨」
旦那は時雨に問いかける。
「はい、咲也はここで一番の過ちを犯しました。
それをうやむやにするわけにはいかない。
だからと言って僕が相手では意味がないですから」
旦那は時雨の言葉に少し間を置いて二、三度頷く。
「それに咲也には、いずれ必要なことですから。
これから『影楼』の顔になるのなら…」
時雨は淡々としかし奥に信念にも似た
重さを感じさせる言葉を紡ぐ。
「…わかった、承ろう」
旦那はそう言って咲也の部屋を後にする。
―――咲也、まずはちゃんと『落とし前』はつけなきゃね
時雨が複雑な気持ちに耽っていると
「旦那様!」
そこには澪が立っていた。
その澪も話を聞いているのだろうか
柔和なその顔も今は怒りに震えているように見える。
「旦那様、僕にもやらせてください」
雪の降る中、川を歩いたりした手足がまだ冷えていて
時雨に抱きついて暖をとっていたのが
時雨が布団を出て数分すると冷えが戻ってくる。
「…くしゅんっ」
小さくくしゃみをしてぼんやりと目が覚める。
「あれ…? 時雨?」
横に寝ていたはずの時雨が居ないことに気付き
布団の中から部屋を見回す。
「おはよう、咲也」
咲也の部屋に居たのは、時雨ではなく旦那と澪だった。
二人は何をするでもなく咲也をじっと眺めているだけだった。
「昨日は大変だったね咲也」
旦那はうっすらと微笑みながら咲也に告げる。
「『教育』だよ」
「え… …はい?」
なぜ旦那と澪が部屋に居るのか…?
『教育』とは…?
何が起こっているのか寝起きの頭では理解できず首を傾げる。
「よぉ〜く見てみなよ咲也、自分が一体どうなってるかさぁ」
澪はまるで咲也に知らしめるように言い放つ。
「…?」
起き上がろうと腕を動かそうとして
初めて自分が拘束されていることに気づく。
「え…」
嫌な予感がしつつ旦那と澪を見つめる。
旦那は、咲也に近寄ってしゃがみこみ
咲也を見下げる形で口を開く。
「咲也、君は自分のしたことの重さを知っているのかい?」
旦那はいつもの表情にほんの少しの厳しさをこめた。
「…『御法度』…です…」
しょんぼりと俯き。
これはきっとその罰なんだろうと察する。
『再教育』の時の春陽と秋月のプレイを思い出す。
「違うね」
見ていた澪は旦那の後ろで声を荒げる。
「すべて旦那様から…聞いた
あれだけ引き留めた時雨を
あの時雨を…咲也は裏切った
僕は…僕はそれが許せない」
澪は時折声を詰まらせながらも咲也を糾弾する。
「澪…」
先日時雨とシテいるところを見てしまってからは
なんとなく疎遠になっていた澪が
わざわざ乗り込んでくる程の怒りなのだろう。
拘束された身体がビクリと震える。
「私も同感だ、咲也
君のしたことは到底許されることではない」
旦那の冷酷な宣言が部屋に響く。
「『お仕置き』だ咲也」
旦那はそれだけ言うとまた遠くから
見物するように椅子に座る。
それと同時に澪が咲也に迫り
強く咲也を押し倒す。
「澪、やりすぎはいけないよ。
キズモノになってしまったら大きな損失だからね」
逆に言えばそれ以外なら
何をしてもいいという言葉にこくりと澪は頷く。
「…あッ」
拘束された身体を布団の上で転がされる。
澪の怒りや嫉妬の入り混じった複雑な眼が強い光を宿している。
旦那の言葉に頷き薄く笑う澪に怯えるように身体をすくませる。
澪は転がった咲也の浴衣に手をかけて
無残にもビリビリと破き、引きちぎってしまう。
胸元も、下半身も淫らに露出した姿は魅力的に見えるだろうが
澪には関係のないことだ。
―――ぴしゃり
澪は咲也の双丘に平手を打ち付ける。
何度も何度も。
傷こそはつかないが赤く熟れた果実のように腫れる。
「ゃ…ぁ んぁ…っ はぁッ ひぁ」
浴衣は完全に破かれ拘束具に絡まる布切れと化す。
腰を抱え上げるように持ち上げられて
双丘へのスパンキングにぎゅっと目をつぶり
一打ちごとに小さな悲鳴を上げる。
「痛いのも感じちゃうのかな? なら…」
咲也の二つの胸の突起をつまみ上げて
捻るように引っ張りあげる。
伸びきったそれは、今にも千切れそうだ。
さらに澪は突起を口に含むとキリキリと歯で攻め立てていく。
「痛ぁ…ぃ ゃあ…ぁ… はぅん」
痛いのが好きなわけではないと首を横に振って否定しつつも
強い刺激に声が零れる。
痛みに耐えてぎゅっと瞑っている目から涙が溢れる。
「時雨の…時雨の痛みはこんなものじゃないんだ…」
ぼそりと呟くと、また背中にぴしゃりて平手を見舞う。
「澪、もっと咲也も楽しませてあげなさい
もう泣いているじゃないか」
澪の感情的な攻めには一切口出しせずに
むしろ煽るような言動をする旦那。
「はい…」
澪は咲也の部屋にあるバイブとローターを取り出すと
慣らしていない咲也の孔にツプリとローターを埋め込んで
その上からバイブを沈めていく。
「きああぁぁあッ あっ ああぁん」
痛いほどの刺激を数分受けただけの身体は
まだまだ感じていないのに
慣らしもなしにローターとバイブまで挿入されてしまえば
裂けるような痛みに声が上ずる。
「ふふ、いい声だ
そそるじゃないか咲也」
咲也の悲痛な声にも満足げに
薄ら笑いを浮かべる旦那に
それをさらに助長させるように
澪はバイブを足でグリグリと押し込む。
咲也の体内でバイブとローターが
ガチガチと擦れる音が漏れる。
「やめ…っ 澪ッ いた…ぁあ ふああぁあっ」
2つの硬いものが振動で触れ合う
ガチャガチャした音が部屋に響く。
それでも咲也のアナルは乾いたままで
いつものような快感に濡れる事はなく
乾いた腸壁をこすられる痛みに苦痛の表情を見せる。
咲也が苦しむのを余所に澪はバイブを激しく擦りあげていく。
「辛い? じゃあ気持ち良くしてあげよっか」
そう言って澪は茶色の小瓶を取り出す。
「咲也はよ〜く知ってるよね あの媚薬だよ」
媚薬を指で掬い取り
キツキツの余裕のない咲也の孔に塗り込めていく。
「これ、すっごく気持ちいいんだってね
いっぱい味わうといいよ」
「…っ!?」」
時雨と別荘に泊まった時に使ったあの媚薬。
その快感の味を知ってしまっている身体は
心とは裏腹に淫らなほどに感じ始めてしまう。
「あ…ッ ああぁん」
さっきまでの痛みを訴える悲鳴ではなく
甘い喘ぎに声が変わっていく。
「ふふ、気持ちいいよね、でも…」
さらに媚薬を咲也の突起に、屹立に
果ては全身に塗りたくる。
「楽しませはしないよ…んっ」
咲也の口を半ば強制的に口づけする。
舌をねじ込ませ咲也の呼吸など
気にせずに口内を犯していく。
「んっ…! んん…ぅ… ちゅく」
全身から痺れるような快感が走り
頭の中はぼんやりと白濁していく。
澪からの強引なキスにも無意識に舌を絡め応える。
「ぢゅる…ちゅく…ん…はあっ
顔とろっとろに溶けてるね…淫乱」
澪は咲也の顔を見るなり蔑んだ表情で
咲也の目の前に自らの屹立を露にさせる。
「咲也の口マンコも気持ちよさそうだ…ねっ」
息を整える暇も与えず
咲也の口に屹立をねじ込んでいく。
頭を掴み、激しく前後に振りまくり
オナホールのような扱いだ。
「んぁッ んん…っ んぐ くぷ…っ」
息もできないほどの激しさでフェラをしながら
『再教育』の時の春陽と秋月の言葉を思い出す。
自分にはこういった客がつかないように
時雨が庇ってくれていたこと…。
二宮のおじさまを除けば
こういったプレイは初めてな自分に気づく。
「なにぼんやりしてるのさ
まだ足りないって感じ?」
喉奥に突っ込んだまま止めて咲也を眺める。
苦しそうな声をあげるたびに
振動が澪の屹立を刺激して快感を与える。
「ほらもっと喘いで僕を気持ち良くしてよ」
敏感になっている突起をつねりあげて
咲也をさらに喘がせようとする
「んぁぁッ ふぁ ちゅぷ じゅる…ッ」
胸への快感にもっと欲しがるように身体をくねらせ
澪の屹立を唇をすぼめ締め付け擦り上げていく。
快感に溶けかけた意識で
出来る限りの性技を使って澪に奉仕していく。
「ああっ、いいよ…咲也…
いっぱい飲ませてあげるからね」
澪の屹立がふくれ、白濁を咲也の口に注ぎ込む。
余韻を楽しむように咲也の精液まみれの口を
クチュクチュと混ぜ合わせるように動かす。
「ふ…っ んぁ ごくん… んっんっん… ぐちゅ…」
澪の白濁を飲み込み
まだ口内を出入りする屹立を舐め上げ
綺麗にしながら自分の身体も
快感を欲していると言うように上目遣いに澪を見つめる。
咲也の淫らな瞳に澪の嗜虐心がさらにそそられる。
「…もっと犯してあげる…お尻向けな」
咲也の頬をピタピタと叩く。
澪の屹立から口を離し、はぁはぁと荒い呼吸をしながら
ゴロンとうつ伏せに寝転がる。
破かれた浴衣の残りの布を
縛られた手で手繰り寄せて双丘を露にする。
「いい格好だね
ほら入れてもらう前に言うことがあるでしょ」
咲也の双丘をまたぴしゃりと叩く。
「ぅ… バ…バイブとローター…抜いて…
澪の…入れて……ください…」
まだ中で接触音を立てていたバイブとローターは
媚薬の効果でぐちゅぐちゅに濡れていて
力を入れれば自分で抜き出さそうになっているが
あえて澪に抜いてもらう方を選ぶ。
―――ぶちゅんっ、ぶちゅん!
埋め込まれたオモチャを引き抜けば
イヤらしい水音を立てて
ぽっかりと空いた孔が出来上がる。
くぱくぱと呼吸をするように開閉する孔に
澪の屹立があてがわれぷちゅんっと埋め込む。
「咲也〜、がばがばだよ
もっと力いれて締め付けな」
馬に鞭打つように咲也に言い聞かせる。
「ひぁんっ ぁぁぁああ んぁあッ」
玩具が抜ける感触だけで喘ぎ声を上げてしまう。
澪の屹立を待つ束の間、潤んだ目で澪を見つめ。
「きゃぅん…っ あはぁぁ…ぁぁあ」
媚薬の塗りこまれた中に澪を感じれば
自分から腰を振って快感を求める。
「そんなに気持ちがいい?
淫乱が、そうやって時雨を求めてるくせに
逃げ出してさ」
咲也を犯しながら、澪は自分の思い思いの言葉を口に出す。
紛れもなくそれは本心であり
快感に浸りながらも咲也を見つめる目は蔑みを孕んでいる。
「うぁ… ごめん……ごめんなさ… ふはぁぁあッ」
澪の言葉を聞いていると
脳裏に時雨の涙しながら迎えに来てくれた姿が浮かぶ。
凍えそうな寒さの中、時雨の手のぬくもりを感じた。
もっと時雨を感じていたかったのに
今はこうして男娼としてのけじめをつけなければいけない
身の上を辛く思っているのに
身体は媚薬のせいで感じまくっている。
罪悪感に見舞われながらも抜け出すことができない。
「なんで…なんで咲也なんだ…
僕は…絶対に時雨先輩を裏切ったりはしないのにっ」
澪の中の心のモヤモヤを払うように咲也の双丘を叩く。
腰を打ち付ける顔は涙ぐんで悔しさをにじませていく。
「ごめ… んぁッ ごめんなさい… は…ぅっ」
澪の言葉に自分など他人に
ましてや時雨に好かれるなんて分不相応なことを
思い知らされるようで謝罪の言葉を繰り返す。
「でも… 時雨が…
…好き…なんだ… ごめんなさい…」
「もういい、咲也」
一部始終を見ていた旦那はやわらげな声で
犯されている咲也の前に立つ。
ただ助けるわけでもなく、むしろ
―――もう何も話さなくていい。
と、告げて。
咲也の口は旦那の屹立で塞がれてしまう。
前から後ろから容赦のなくいたぶられる。
「んぁ… んく…ッ んっんっ…ん」
前後から突き上げられる苦しさと
澪への申し訳なさに涙が零れる。
旦那の屹立は時雨や澪の比でなく大きく
噛まないように咥えるだけで口の端が切れそうだ。
「僕は…咲也を許さない…
絶対に許さないから」
後ろから澪が咲也の屹立を握りしめ
ごしごしと乱暴に扱き
前からは旦那が突起を引っ張る。
痛みと快感で逃げ場のない状況に
咲也の身体の力が抜けていくのがわかる。
「ふく…っ んぁ くちゅ…んッ」
全身に塗られた媚薬の効果で
意識が飛びそうな程の快感が
背筋を走りビクンビクンと身体を震わせ
頭は真っ白に飛びそうだ。
乱暴な手淫にも感じてしまい
射精感に襲われ苦しそうに喘ぐ。
「んぁぁ… くぁぁん」
「くっ…咲也、出すよ…んああっ」
澪は咲也の体内が締まるのと同時に
屹立から白濁を注ぎ込む。
また緩くなった咲也の腸壁からは
白濁と腸液の混ざりものがだらしなく漏れ出してくる。
「んぁぁッ ぁ…ぁぁ…あああッ」
中に注がれる感覚に旦那の屹立を思わず吐き出し大きく喘ぐ。
この状況だ、許可なく自分がイク事は
許されないだろうと本能が感じていて。
ドライでの絶頂を迎える。
「ああ、そんなに私のが気に入らないかね?
それともそんなに気持ちよかったか…」
旦那は薄く笑いを浮かべて咲也の髪をつかんで咲也の顔を見る。
「いずれにせよ、こうなった私はしつこいからね
澪もまだまだ元気いっぱいだ。
楽しませてもらおうか」
「は…ひ ごめんなさい…」
乱れた息をしながら旦那を見上げ謝る。
自分から旦那の屹立を咥え直し
ちゅくちゅくと音を立てながら奉仕していく。
「僕のも綺麗にしてよね
まだまだ終わらせないから」
澪も孔から屹立を抜き取ると咲也の口に
グリグリとなすりつける。
咲也の調教は終わる気配を見せない。
咲也の声は、夜通し途切れることはない。
―――咲也…
時雨は自分の部屋でじっとベッドに座り待っている。
咲也なら問題ないだろうと思いながらも
あまりに激しい調教を受けていることを思えば
ひとつため息をする。
―――咲也…