第三十六話 「バレンタインの誘惑」
第三十六話
「バレンタインの誘惑」





「決めた」
時雨は食堂でばんと机を叩いて見せた。
本日2月の13日早朝。
その音に何人かの男娼は振り向くも、また自分の朝食に向かい始める。
時雨はなにか並々ならぬ決意を持って言う。
「咲也にチョコを作るんだ」

「やめとけ」
時雨の膝の力が抜ける。
あっさりと水を差したのは柚槻だった。
「別に作るのは勝手だがよぉ〜、手前前科がありすぎるだろうが」
「そうだよー」
「何回小火起こしたかわかってんのぉ?」
柚槻を挟むようにして座る双子がそれに同意する。

「なっ…そんなに僕が台所に立つことが…」
「次は手前が黒こげになる」
柚槻の零下の一言が時雨に突き刺さる。
「それでも…作ってやる…」
時雨はそれにも関わらず闘志を燃やす。

「おはようございます… 何の話?」
咲也がトレイに朝食を乗せてテーブルにやって来る。
なんだか時雨がやる気になっているのを3人が否定しているのはうかがえて。
「やる気になってるのなら
 なんでもやらせてあげたほうがいいですよ?」

「あ、さすが咲也
 やっぱり話がわかる」
グッと拳を握りしめて時雨は颯爽と食器を返却棚に戻す。
「咲也には絶対言っちゃダメですよ!
 ごちそうさま!」
ばたんと食堂のドアを開けて後にする時雨。

「やっぱり阿呆だなあ、あいつ
 自分からなにやらかすか言ってるようなもんじゃねーか」
柚槻ははぁっとため息ひとつついて首を振る。

「あはは… えーっと…
 喜んでいいのでしょうか…?
 僕も台所使うからバレバレですよねぇ…」
ここは時雨のために知らなふりを通そうか悩み苦笑いする咲也。

「まあ、喜べばいいんじゃないのー?」
春陽がニヤリと笑い。
「咲也と時雨が絡むのも久し振りだろうしさぁ」
と、秋月は薄く微笑む。
咲也はあの『出来事』以来、自分の仕事に専念するようにと旦那から釘を刺されていた。
つまり時雨と会うことはあっても、共に過ごすというのは無くなっていたのだ。
時雨はそれをおくびにも出さずに、淡々としていたが心中はいかばかりか。
「いいんじゃねぇの?
 それだけ手前のことを思ってるみてーだしさ」

「皆さんの義理チョコも作れなくなりますが
 時雨を優先させていただきますね」
にっこりと微笑み告げると食堂中の男娼がガタンと音を立てて席から立ち振り返る。
「時雨の火災より咲也のチョコ!」
「咲也ちゃんの義理チョコ欲しい!」
と、抗議の声が上がる。

「へっくち! あれ、もう花粉症かな?
 そんなことより材料材料…」
自分の提案のせいで咲也にとばっちりがきているとは露しらず。

他にもお客様のために接客チョコを作りたいから教えて欲しいと頼まれていたのでそれまで断る訳にもいかず咲也がうーんと悩んでいると食堂スタッフから
「もう一つ台所があるよ」
と、教えてられる。
「ああ あそこなら流石の時雨も燃やせねぇな」
柚槻を始め男娼一同うんうんと頷いて時雨には『そこ』でチョコ作りに専念してもらおうと決まる。
――その場所とは遊郭の敷地内に離になって建っている旦那と女将の住居の台所のことだった。

「さあ、やるぞー」
シャツを捲りヤル気満々で台所の食材と相対する時雨のはずだったが
「待った」
またもや呼び声に力が抜ける。
「あ、女将さん…
 何ですか『待った』だなんて」
時雨は口をすぼめて不満そうにする。
「咲也がここでチョコを作るらしいの
 あなただってバレたくはないでしょう?」
絶妙な言いくるめで時雨を焦らせる女将。
「な、それは…でも他に場所なんか…」
「ついてきなさい時雨」
時雨は言われるがままに従う。

台所から女将に連れられて離へと出かけていく時雨をこっそり覗きながら
「ふぅ…」
と、一同安堵のため息をつく。
「んじゃ咲也先生 よろしくおねがいしまーす」
今までのバレンタインはGODIVAやジャン=ポール・エヴァンなどの高級チョコを贈っていた男娼たちも『手作り』に初挑戦で時雨の去った台所が賑わう。

一方時雨。
「いいですか
 まずどんなチョコを作ろうと思って?」
女将が時雨に問いかける。
「う〜ん?
 刻んで溶かして型にはめる?」
時雨は首をかしげて答える。
女将は苦笑いを浮かべて
「時雨…それじゃカチカチのチョコだし
 小学生にでも出来そうな代物ですよ?」
案の定時雨の計画は安易なもので、それはそれで時雨らしくていいのだろう。
「プレゼントするものならちょっと一手間加えた方がいいかもしれないわね?」
「うーん?更に砂糖を加えるとか?」
時雨の一言に困惑を微妙にあらわすも、平常心を保ち女将は言う。
「それじゃ、ただの甘ったるいチョコだし…
 そうね、私がサポートします。
 時雨はちゃんと時雨の手で作れば文句はないでしょう?」
「うーん、そう…ですよね、お願いします」
時雨はなにか腑に落ちないと思いながらも共同作業が始められる。

皆と一緒にチョコを刻み湯煎にかけてテンパリングしながら時雨は大丈夫かなぁっとふと上の空になってしまう。
「咲也 咲也ー 生クリーム沸いてるよ」
「あっ ごめんなさい
 じゃあ刻んだチョコを生クリームに溶かして混ぜます」
食堂の台所とは言え全員で同時に鍋が使えるほどコンロもないのでトリュフを作る男娼とガトーショコラを作る男娼と別れる。
「えっと こっちは卵白を泡立ててメレンゲにして…」

「『刻んで、溶かして、固める』という
 基本は分かっているようだから
 生チョコにしましょうか」
製菓用のかぶりつきたくなるような大きなチョコを冷蔵庫から取り出し時雨の前に置く女将。
「少し骨が折れますが作業らしい作業はこれだけですからしっかりこれを刻みましょうね
 包丁の使い方は大丈夫?」

「えーと…包丁の根元辺りで刻むんでしたよね…」
と、時雨は包丁の峰に手を当ててざっくりと刻み始める。
冷えたチョコレートは意外に固く、時雨も一生懸命に作業を続ける。

「咲也が色々やるのを見ていただけありますね。
そうそう。 そんな感じですよ」
時雨の手つきを微笑ましく眺めて。
「ここで出来るだけ細かく刻んでおくと
 後で溶かすのが楽だし
 口溶けも良くなりますから
 頑張って刻みましょうね」

「はーい」
と、軽く返事をして、うっすら汗を浮かべながらひたすらに刻んでいく。
思えばまともに料理をすることは、咲也とクレープを作った時以来で、そのときを思い出しながらチョコを刻んでいく。

遊郭の台所ではガヤガヤと賑やかにチョコ作りが進んでいく。
咲也も皆に教えながら自分の分の義理チョコと時雨用の本命チョコを作っていく。
忙しさにまぎれて時雨の心配を忘れてしまいそうだ。

「女将さーん、終わりましたよー」
ようやくはじめの作業も終わり、一息つく時雨。
「次は…湯煎しなきゃ」とボウルを用意する。

「あら残念。
 生チョコは湯煎しなくていいんですよ」
湯煎しようと用意したボウルに生クリームを入れるように指示して。
「生クリームに直接溶かしますから
 まず生クリームを温めて」

「んぅー?」
時雨は不思議そうに首を傾げるもたぱたぱと生クリームを開けて注いでいく。
「生クリームにチョコレートを入れるなんて聞いたことないんですけど…」

「入れてみると分かりますよ。
 チョコレートのクリームみたいになりますからね」
不思議そうな時雨を見てクスっと微笑み。
生クリームがふつふつと沸いてきたら
「はい チョコを入れてシリコンヘラで練って」

「はーい」
刻まれたチョコレートの山をボウルに少しづついれ混ぜること数分、トロトロと生クリームと混ざりあいチョコクリームのような滑らかさがでてくる。
さながら時雨は目を丸くして様子をうかがう。

「しっかり溶かしたらバットにラップを敷いて流し込みますよ」
バットとラップを時雨に手渡し用意させる。
トロトロと流し込めばチョコの光沢がなんとも美味しそうだ。

「これ、固まるんですか?
 生クリームが固まるとこ見たことないですけど…」
時雨にとってはなにからなにまで初めてで少し不安になりながらも
「あとは冷やせばいいんですよね?」

「チョコが固まるからこれよりは固くなりますけどクリームの分柔らかさが残るんですよ」
不安そうな時雨をなだめるように言って。
「一晩じっくり冷やしますから
 明日の朝になったらまたいらっしゃい」

「はい、ありがとうございました。
 明日が楽しみです」
にっこりと笑みを浮かべ、使った器具のあとかたずけをする。
「咲也はどんなの作ってるんだろう…」

「あちらは賑やかにやっていそうねぇ」
離れから遊郭の台所の方を見ながら女将が微笑む。
「毎年こちらに一人チョコを作りにやってきますが
 時雨の番が来るなんてねぇ」
クスクスと微笑みながら時雨の頭を撫でる女将。

「僕だって、なにか作りたい時はありますよ…」
と、少し赤くなって答える時雨。
「ま、また明日きますから」
と、足早に台所を去っていく。

照れながら去っていく時雨にひらひらと手を振って見送る女将。

―― 一方遊郭の台所でも皆のチョコが続々と完成していく。
「ありがとう咲也」
教えてくれた咲也に一同お礼を述べて、ラッピングして余った分をお互いに味見し合ったりと盛り上がっている。
「ううん 喜んでもらえて僕も嬉しいよ」
と、咲也も照れくさく礼を受けながら微笑む。

2月14日 バレンタイン当日。
朝の食堂では早くも『友チョコ』を配る男娼の姿がちらほら。
時雨と朝食をとっていた咲也のもとにも昨日のお礼として幾つかのチョコが渡されていた。
「時雨はこれから仕上げ? 頑張ってね」
にこやかに時雨を見送る。

「うん、これから女将さんのとこに行ってくるね」
朝に弱い時雨も今日は元気よく。
咲也に挨拶を交わすとそのまま駆け出していく。

「おはようございます
 さっそく始めましょうか」
離れの台所に着くと女将が出迎えてくれる。
冷蔵庫を開けるとバットに流したチョコが冷えて固まっているのを確かめるように軽く指先で押してみる。
「ちょうどいい感じですね。
 あとはこれを角切りにしてココアをまぶすだけですよ」
バットを時雨に渡してココアの缶を用意する女将。

時雨も固まったチョコをフニフニと触る。
ほどよい柔らかさに時雨はおおーと感嘆の声をあげる。
「ちょっと食べてみたい…かも」
やはり最初に思ったのが『食べてみたい』という思いで、食欲に時雨はぶんぶんと頭を振る。

「角切りにした『端』が残りますから
 味見しておくのもいいんじゃないかしら?」
この辺が余るというように指で周辺をさしながら女将も
「私もちょっといただきたいわ」
と、笑ってみせる。

「じゃあ、早速切りましょう!」
俄然張り切る時雨は、女将の指示通りに生チョコを角切りにしていく。
可愛く一口サイズに切り分けられた生チョコをにココアパウダーをまぶし、いよいよ完成といったところだ。

周辺のでこぼこした部分が余り、それも一口サイズに切ってココアをまぶして時雨と一緒に試食する女将。
「…ん ダマもなく柔らかいし上出来ですね」

「う〜、おいしいっ
 自分で作ったからなおさらおいしい!」
生チョコの味に唸る時雨、そのまま全部食べそうな勢いで余りの部分を口に運んでいく。

「ふふ ちゃんとできて良かったですね。
 全部咲也の分なのかしら?
 あ 一条様にも差し上げるわよねぇ」
出来上がった生チョコをどう分けるのか確認しながらラッピング用の小箱やリボンを用意する女将。

「んー、そうですね。
 あとはいつもお世話になってるお客様に数人くらいですかね?
 足りるとは思いますけど…」
指をおり、どう分ければ良いか思案する。
「まあ…咲也の分はちょっと多めで」
と、小箱に取り分けていく。

「じゃあ これで足りるかしら」
時雨が小分けにしていくのを一緒に確認しながら
「咲也の分だけ間違えないように少し大きい箱ですね」
リボンをつけてしまうと一緒になってしまうのを間違えないように『○○様へ』と宛名の書けるメッセージカードを用意する。

「えっと…おっきい箱に『咲也へ』…と
 こっちは『一条様へ』…と」
きゅっきゅっと、お世辞にも上手いとも言えない字で、宛名を書いて、プレゼント用のチョコが仕上がる。
「あとは渡すだけ…」
いつにもなく緊張してしまう時雨。

「今日は咲也と過ごしてもいいそうですよ」
女将が旦那から言付かってきたことを告げる。
「夜にはお互いの仕事を優先させますから
 夕方までですけど
 久しぶりに二人でゆっくりなさい」

「はい! ありがとうございます!」
時雨はぴょんと跳ねて両手にチョコの入った箱を抱えて、またトトト…と駆け足で去っていく。

咲也も『友チョコ』を配り終わり交換で貰ったチョコを抱えて部屋に戻る。
自分のお客様に渡す分と混ざらないように冷蔵庫に保管する。
時間はまだ昼前で仕事の予定にはまだ時間がある。
時雨に渡す分の箱を取り出して
「いつ渡そう…」
と、独り言を呟く。

「咲也…」
障子の向こう側から声がする。
小柄なシルエットに、聞き慣れた声。
「入っても…いいかな?」

「ん… チョコ出来た?」
微笑みながら障子を開けると、女将の台所から直接やってきたのだろう、両手いっぱいにチョコを抱えた時雨のちょっと早い呼吸。

「ん、できたできた」
時雨は部屋の中に入ると、チョコを静かに机に置き。
「えっとこれが一条さまので…
 これは違う… あった」
と、他よりも大きめの箱を手に取り
「えっと…ハッピーバレンタイン?
 でいいのかな…」
はいと咲也にチョコを手渡す。

「ん ありがとう
 …はい『本命チョコ』だよー」
時雨のチョコを受け取り嬉しそうに微笑んで、冷蔵庫から取り出した時雨の分のチョコレートを照れくさくてちょっとフザケた風に渡す。

「ありがと、咲也」
おちゃらけてプレゼントする咲也に時雨もにししと照れくさそうに受けとる。
「ねぇ、一緒に食べようよ
 咲也のチョコ楽しみにしてたんだから」
咲也のチョコを持ちながら小躍りし、また自分が作ったチョコを食べてもらいたくて、つい咲也を急かしてしまう。

「うん… 時雨のチョコ 楽しみ…」
微笑みながら小躍りする時雨を見つめて。
「あ 僕のちょっと温めてから食べるやつだから… 食堂のレンジに入れてくるね」

「ん、はやくはやく〜」
時雨は椅子に座りまるでせわしない子供のように咲也を待ちわびている。

食堂のレンジで1分温めて外はふわふわ中はとろ〜りのフォンダンショコラを冷めないように急いで部屋に持ち帰る。
「はい お待たせ。 時雨のも開けていい?」

部屋の中は甘い上品な香りが立ち込めて、時雨は思わず喉をならす。
「もちろん、はやく見て欲しいくらいだよ」

「ふふ 自信作なんだねぇ」
丁寧にラッピングのリボンを解き箱を開ける。
可愛い一口サイズの生チョコが並んでいる。
「うわぁ 美味しそう ちょっと記念に…」
携帯を取り出して写メを撮る咲也。

「あ、僕も記念に…
 携帯電話ないから一緒に撮ってよ」
と、自分のチョコを手に取り咲也のカメラの前に立ってみる。

「うんうん はいポーズ」
カシャカシャと時雨の生チョコや自分のフォンダンショコラと時雨のツーショット写真を撮っていく。
「…こんなもんでいいかな? さ 食べよ」

「よーし、いただきまーす」
待ってましたと言わんばかりに温かいフォルダンショコラを口に運ぶ。
「んあー! なにこれ?
 トロトロであまーい!」
ほっこり顔を綻ばせてチョコレートを味わう時雨。
「ねぇ、僕のは?」

「いただきます
 …ん こっちも口の中でとろける…
 美味しい」
時雨の生チョコを1粒ずつ味わうように口に運ぶ。

時雨は咲也の様子を見て内心ガッツポーズをする。
咲也にはじめて奮う料理を喜んでもらえた。
それだけで時雨は幸せに思えた。
「はい、咲也、一個と言わずにもっと」
と、フォークに生チョコを刺して咲也の口元に運んでやる。
「はい、あーんして」

「ん あーん…」
時雨にフォークを向けられると照れくさそうにはにかみながら生チョコを口にする。
「…うん 美味しい
 初めてなのに上手に出来たね」
嬉しそうな時雨を褒めるように髪を撫でる。

「んー、ありがと咲也」
頬をうっすら赤く染めて肩をすくめる。
「咲也とこうやって一緒に居るの久しぶりだから
…なんだか嬉しいな」

「うん… そうだね…」
お互いの気持ちを確かめ合ってから二人きりで一緒に過ごすのは初めてで…
男娼という自分たちの立場を世知辛く思っていたが、やっとこうして二人で過ごせるとなるとどうにも照れてしまう。

「こうやって、バレンタインのチョコを食べてると
お互いを確かめあってるようで…いいよね」
もぐもぐとフォンダンショコラを頬張りつつ咲也に近寄る時雨。
「それに、僕は一秒だって我慢できないんだから」
と、咲也の唇を優しく奪う。

「うん… ぁ…っ ちゅ」
久しぶりに交わすキスはチョコ味で…
その味よりさらに甘い時雨の舌使いに思わず時雨に抱きつき舌を絡めて応える。

「ちゅ……ん、あっ、ちゅるっ…ちゅ」
深く甘いキスを求めあうように交わす二人。
そのまま布団になだれ込むように寄り添い、キスを続ける。
「ちゅぱっ…咲也…寂しかったろ?
 僕もすっごく物足りなかったんだよ」
首筋を埋めて、時雨は咲也に語りかける。

「ん…んんっ ちゅく… はぁ 時雨… ちゅ」
1ヶ月以上も離れていた物足りなさを埋めるようにキスを求めてきつく抱きしめ合う。
「時雨… 本当はあの日…帰ったら
 すぐにこうして居たかったよ…」
首筋に時雨の吐息を感じながら柔らかく髪を撫でる。

「そうだね…だから今は時間の許す限り…」
咲也の首筋をペロリと舐める。
咲也の着物を肌蹴させると、さわさわと柔らかな肌を撫でていく。
「咲也、いいにおい」
子犬のようにすんすんと鼻をつついては胸板や突起を舐めていく。

「うん… あ…ッ 時雨 んぁ」
咲也も時雨のシャツのボタンを外して肌蹴させ白い胸元や肩を撫でながら脱がせていく。
「…時雨は… チョコの香りがする…」
くすっと微笑み自分の胸に押し当てるように時雨の頭を抱き寄せる。

「ん、なんだろ…ふわふわする」
時雨はふれあう度に心地よい浮遊感を感じていた。
時雨はそのまま咲也の陰部に移り、もう堅くなりつつある屹立にそっと触れる。
「咲也の、もう元気になっちゃったね」
布越しに咲也の屹立を扱き様子を見る。

「ふ… そうだね
 なんだかくすぐったいような懐かしいような…
不思議な感じ… あッ…ん」
自分の上を跨がせるように時雨の脚を開いてこちらもズボン越しに屹立を上下にさする。

咲也とのいじりあいに時雨の口から甘い声が漏れる。
「んあっ…咲也…」
時雨は我慢ならなくなったのか、咲也の屹立を露にさせて、鈴口をペロリと舐める。
「あは…咲也の味だ…ちゅく」
先走りを味わいながらトロトロの舌で丹念に舐めあげていく。

「ふぁ…ぁ…ッ 時雨…しぐ…れ… ちゅぱ」
時雨の舌に反応してビクンと肩をすくめながら時雨のズボンを脱がせ同じように先端に優しくキスするように吸い付く。
「ちゅ… ちゅる
 時雨も…すっごい濡れてる… ちゅぅ」

お互いの屹立をむさぼりあう形で、繰り広げられる交わりは、さらに熱を帯びていく。
時雨は咲也に負けないように屹立を咥え込みちゅぷちゅぷと音を立ててすする。
じんわりと広がる屹立の熱さにうっとりと表情が綻ぶ。
「あッ ああ…んっ 時雨
 はぁ はっ 気持ちい…ぃ
 ちゅぷ くちゅ」
お互いの気持ちを確かめ合った後 旦那の言いつけで時雨とは引き離せれる状態になっていたので快感は切なく募る。
時雨が自分に与えてくれる快感をお返しするように屹立をしゃぶる。

「はっ…あうぅ…咲也っ
 気持ちいいようっ…ちゅぷっ」
時雨は咲也の奉仕に身をよじらせて耐えていたが、やがてはその堰も切れて。
「 咲也っ…いっちゃうっ…いくよぉっ」
一段と高い声をあげて白濁を吐き出し果てる。

「んぁ…っ 時雨ぇ 僕も…も…ダメぇ
 ふぁぁあ…あああっ」
時雨の白濁を受け止めながら同時に自分もイってしまう。
「はぁ… はぁ… 時雨 ちゅ…」
荒い呼吸をしながら起き上がり時雨を抱きしめて頬に軽くキスを落とす。
「もっと…時雨を感じさせて?」

くったりと射精の感覚に浸る時雨。
それも束の間、咲也が時雨を求めてすりよってくる。
時雨は微笑んで、足をあげてそれを腕で抱えるようにする。
露になった秘部は、トロリと透明な腸液をしたたらしている。
「咲也、いっぱいちょーだい」

「すごい… まだ弄ってないのにこんなにグチャグチャにして…
 時雨のえっちな身体好きだよ… ちゅ」
キスを頬から唇に移していきながら孔に指を入れクチュクチュと慣らしていく。
反対の手で自分の着物の帯を緩め下半身をあらわにする。
時雨の口内に射精したばかりだというのにまだ元気な屹立を孔にあてがう。
「いくよ…」
クチャっといやらしい水音と共に自身を時雨の中に沈めていく。
「ふ…ぁ 時雨の中…熱い… んぁ」

時雨の孔は簡単に咲也の指を飲み込んで、きゅうきゅうと締め付ける。
時雨も指だけで十分感じているようで腰が不規則にひくひくんと跳ねる。
「うん、咲也…来て。
 ぐちゅぐちゅにおしり気持ちよくして?」
時雨はいまかいまかとばかりに咲也の屹立をトロンとふやけた表情で眺め。
「んはああああっ
、咲也っ…来てるよ…
 あついのが…っ…ああっ」

「んぁッ そんな…締め付けちゃ…ダメ…
 はぁ…っ 時雨 時雨…」
愛おしそうに優しく名前を呼びながらも腰は激しく前後に振り時雨に打ち付ける。
時雨とシテる時にだけ感じる中で溶けてしまいそうな感覚に頭が真っ白になっていく。
「あっぁぁぁあッ しぐ…れ 時雨…
 大好きだよ… ふぁぁあ…んッ」

「咲也っ…僕も…好きぃっ…
 んああっ、はああっ」
時雨は脳髄がスパークするような快感に涎を垂らしながらひたすらに腰を振る。
咲也の屹立がまるで自らの一部であるかのような感覚が時雨を包み込んでいた。
「さく…や、もっと、さくやのあつぅいの
 ちょうだい…んあっ」
咲也を抱き寄せて、咲也の体の熱を一身に感じ取ろうとする時雨。

抱きついてくる時雨を抱き返し密着した状態で腰を揺らすと二人の身体に挟まれた時雨の屹立が擦れ合って何とも言えない快感が身体を支配する。
「くぅ… はぁ 時雨 たっぷり時間をかけて
 味わいたかったのに
 時雨の中 気持ちよすぎ はッ あぅ」
今にもイキそうになりながら出来うる限り時雨に快感を与えていく。

「はあああっ、咲也っ
 きてっいっぱい注ぎ込んでよっ
 おしりに咲也の…んっ…ああっ」
時雨も咲也の屹立や温もりを存分に味わいたかったが、感じすぎる身体では、もはや屹立の歯止めは聞きそうにもなく。
「いぐぅっ…いくっ…おしりっ…おかしくなるぅっ」
時雨は挟まれた身体の中に熱い精液を吐き出して、お腹を白く染める。

「イクぅぅ… 時雨っ ああぁあぁぁぁ…ああッ」
 時雨の最奥を突き上げ熱いほとばしりを注ぎ込む。
「愛してる… 愛してる時雨…
 はぁ はぁ はぁ…」
イッタばかりの余韻を味わうように時雨を抱きしめ肩に顔をうずめ耳元で囁く。

「あああっ…おなか…熱いよう…」
注ぎ込まれた咲也の精液が、時雨にはじんわりと芯から身体を暖めるように感じられる。
「うん、知ってる…
 咲也は、僕の咲也は絶対に離さないから」
抱きついてくる咲也をこちらからもぎゅっと抱き締める。
大切なものを決して離さない子供のように。

「時雨… 嬉しい…」
時雨の肩に顔を埋めたままポロポロと涙が零れる。
初めて逢った時から惹かれていた存在に自分の全てを知られても好きだと言ってもらえる。
こんな幸福なことはないだろう。
時雨の汗ばんだ身体をけして離さないように咲也も抱きつく腕に力を込める。

「咲也…泣くなよー
 あ、気持ちよすぎて泣いた?」
時雨は咲也の様子をみて、にししと微笑みながら頭をくしゃくしゃと撫でる。
「咲也の泣き虫は治らないね
、うん、咲也らしいや」

「ぐす… うん 気持ちよかった…
 こんなに気持ちいいの時雨だけ…」
枕にグリグリと顔を押し当て涙を拭くと時雨に腕枕されるように横たわり時雨を見つめて微笑む。

微笑む咲也、つられて照れくさそうに微笑む時雨。
咲也の幸せそうな顔を見ているとなんだか胸の奥がきゅうとくすぐったい。
「咲也っ…」
時雨は咲也に寄り添って指と指を絡める。
「もっと、もっと咲也と気持ちよくなりたい…
 だから、今日は寝かせないから」

「うん… 僕もずっと時雨と居たい…」
絡ませた手を口元に運び時雨の白く細い指に口付ける。
「誰にも邪魔されず…ずっと
 こうしていられたらいいのに…ね?」
男娼である二人には叶わない事だと知りながらも胸が苦しいような独占欲が生まれてしまう。

「いつか、きっとそんな日がくる…いつかね」
時雨は咲也にそう言い聞かせていつのまにかつらそうにする咲也の顔をなでる。
「ほら、咲也、もっともっと
 愛し合いたいんでしょ?
 きて…んっ」
時雨は咲也の口を奪い舌を絡めとる。
長いようでほんの短い甘い夜を時雨は無駄にはしたくなかった。

「うん… 今はここで…
 時雨と一緒に居られるだけで…
 十分幸せだよ… ん ちゅぅ」
いつかそんな日が来るといいなと微笑み時雨のキスに舌を絡めて応える。
「苦かったでしょ? チョコで口直し… ちゅく」
時雨の生チョコを1粒口に含みチョコの溶けるような甘いキスを交わす。
「甘くて…美味しい…
 ありがとう時雨 大事に食べるね」
チョコよりもとろけそうな甘い夜は互いを確かめながらゆっくりと過ぎていった。




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