第四十一話

「二度目の夏」





暑い とにかくこの夏は暑すぎる。
今年襲っている猛暑の波は尋常ではなく
テレビを開けば連日最高気温の更新や
異常気象を伝えるニュースが目に飛び込んでくる。
森の中に深々とたたずむここ「影楼」も例外ではない。
空調設備があるとはいえ、気温相応に暮らしづらいのには変わりはない。
男娼の中にも暑さでへばってしまっている者もちらほら。
その中にはもちろんのこと
「あ”ー…ぁ……」
すっかりまいってしまっている時雨。
「38℃ってなんだよ…おかしいよこれ…」
もちろん時雨の部屋にもクーラーは設備されているが
設定温度はそれほど下がらないらしくベットでぐったりとしている。
「ふざけんなー…
 これで仕事とかふざけんなー…」
普段「仕事」対して文句を言わない彼も、愚痴をこぼさずにはいられなかった。

時雨の部屋で一緒に休憩時間を過ごしている咲也も
暑そうにしている時雨に寄り添うことはせず
ベットに寄りかかるように床に座って浴衣の襟を少し崩し
うちわでパタパタと自身を扇ぎながら
同じようにぐったりとした表情を見せている。
暑さのせいか食欲がなく夏バテしているなと感じていた。
「…はぁー
 南向きの日当たりのいい部屋ってのも考えもんだね…
 影楼は建物は古いからきっと屋根に断熱材とか入ってないだろうし…」
クーラーの設定温度まで下がっていない室温を感じながらぼやく

「ねーえー 咲也…」
寝そべっていた時雨が顔をあげて、ふと咲也に話しかける。
目は相変わらず死んでいるが。
「ねー、咲也の別荘…結構涼しかったよねー… 避暑地ってやつ?」
と、言ってまたベットに顔をうずめてしまう。
「休みとれないかなー」
もごもごと願望を漏らす時雨。
当然のことながら、男娼の休みはなかなかあるはずもない。
ましてや時雨や咲也ほどの男娼になればむこう数か月は予約でいっぱいなのである。
「どーにかなんないの…?」

顔を近づけてきた時雨にうちわの風を送ってやりながら時雨の提案に困った笑顔を浮かべる

「んー… そだねぇ 休み…かぁ
 昨年は時雨の怪我の治療で行ったんだっけ…」
と、昨年のことに考えを巡らせる。
「それ以外でお休みだったのは… 誕生日…くらい?」
自分の誕生日は翌日が呪わしい事件の日でもあるんであまり嬉しくない日でもあるのだが
思い出せる休みというとそれしか思い当たらなかった。
「誕生日にお休みもらって出かけるとか… できるのかなぁ?」

時雨はそれを聞くなりぴょんと起き上がり
「ダメもとで… やってみるしかない!」
と、咲也の手を取るなり
バタバタと廊下へと駆け出していく。
先ほどの気力のなさとは打って変わっての活力である。

「え…? どこ行くの?」
時雨に手を引かれて廊下を小走りしながら崩していた浴衣の襟を整える。

「旦那様に直談判しかないでしょ?」
思い切りがいいのか、はたまた楽観的ともいうべきか
時雨の目には昨年の
――咲也と過ごした――
海しか映っていないようだった。
「もう暑いのは勘弁だからね!」
ペタペタと廊下を走る音が響く。

――ところ変わって旦那の部屋。

「休暇をください!」
バタンと一目散に旦那に詰め寄ると、一言で要件を述べてみせる時雨。

「えぇぇ!? それにしたってちゃんと理由とか考えてからじゃなきゃ…」
時雨を説得しているうちに旦那の居るロビー横の控え室に着いてしまった。
せめて何かを言ってから要件を述べるものだと思っていたのに
時雨の口からは開口一番
「休暇をください」
だったことに思わず頭を抱える咲也。

デスクの上で事務作業を行っていた旦那は
時雨を一瞥してまた書類に目を通しながら
「いいよ、好きなところへ行っておいで」
と、こちらも一言で返してしまう。
時雨はそれを聞くなり
「よしOK、咲也、準備するよ」
と、また咲也の手を引いて駆け出す。

旦那のあまりにもあっさりした返答にポカンと口を開けてしまう咲也。
「え…? あの… いつから…ですか?
 時雨と僕の予約のお客様は…?」
OKをもらえたのに逆にこちらから質問してしまう。

「ああ、咲也の誕生日の前日から
 その次の夜までには帰ってくること
 そのまた次の日は咲也は追悼式があるからね」
と、淡々と話す。
「予約?そんなものは未定だよ
 いくらでも変えることだってできるさ」
と、にやりと笑って見せる。

やっぱり誕生日はお休みなんだなー
と、思いながら
「ありがとうございます」
と、旦那にペコリと頭を下げて。
準備準備っと手を引く時雨に付いて控え室をあとにする。



――8月21日の朝

時雨と咲也は昨年と同じように、電車を何本も乗り継いで咲也の別荘に到着していた。
朝でも陽射しは容赦ないが
避暑地ということもあって、不快さはあまり感じられない。
「んー! 来たよー 海ー」
白波を立てる大海原を前にうんと背伸びをする時雨。

昨晩まで最後の接客をこなして
そのまま始発電車で眠りながらやって来たので
夏バテ中の咲也には時雨のような元気はまだない。
「元気だねー時雨…
 今年は海入れそうだから
 一旦別荘行って水着に着替えてこようか?」

時雨は海に向かって何やら大声を上げているようで
咲也の言葉が入っているのかいないのか。
しばらくして満足したようで
「咲也ー 水着に着替えるよー」
と、言ってまたしても咲也の手を引く。
咲也はへとへとであるにもかかわらず…。

はしゃぐ時雨を微笑ましく見つめながらしばらく好きにさせておく。
水着に着替えに別荘に向かい玄関を開けると
昨年と同じように連絡をしておいた三田さんのもてなしの準備がしてあった。
それを見てやっと元気が戻ってくる咲也。
今回は一泊だからと言っておいたので
冷蔵庫の中などはケーキの箱とペットボトルが数種類しか入っていなかった。
海水浴中の水分補給にミネラルウォーターのペットボトルを取り出して持っていく。
泳ぎの得意でない時雨がそんなに長時間海で泳ぐとも思えなかったので
日焼け防止のクリームをしっかり塗ってやり
さらにパーカーを羽織らせ日焼け対策をしっかりする。
――色白の肌は時雨の商売道具なのだから――
「さぁ 行こうか」

「うん、そだね」
時雨と咲也は、手を繋いでで海へと入っていく。
ちゃぷんと海水に身を浸せば、今までにためてきた熱がじんわりを冷やされていくようで
「んはー! きもちいいー!」
ちゃぷちゃぷと相変わらずあまり上手くもないクロールで泳ぎ回っていく。

「海はプールと違うから気をつけてね…」
大きく波頭を立てる場所を抜けてから
肩まで浸かるくらいの位置まで進んでからゆっくりと足先で海底を探る。
この海は浅瀬から急に深くなる位置があるので確認しておかなくては…。
今日も昼には猛暑を記録するだろう快晴だが
こうして海水に浸っているとやはり涼しく感じられる。
時雨のように自力で泳いでいると疲れてしまうので
大きなフロートに両腕を組んで載せてプカプカと浮いて波に揺られる感じを楽しむ。

咲也がのんびりと涼しさに浸っている
その束の間
「ああああああ」
時雨は大きな波に立て続けにのまれ
いつの間にか浜辺に打ち上げられていた。
「咲也ー! なんか波強いよー! うえー しょっぱい…」
もともと体力のない時雨は、やはり咲也の予想通り息を切らしている。

「…」
やっぱり…
と、呆れたように苦笑いを浮かべて波打ち際まで戻る。
「大丈夫? ほら うがいして」
ペットボトルの水で口の中をすすぐように勧めて。
「あそこ… 波が高いところがあるでしょ?
 一回あれを潜ってくぐると 奥は波穏やかだから…」
と、説明してもう一度時雨の手を引いて海に入っていく。

「うえー、なんで海の水ってしょっぱいのかな… 砂糖でいいじゃん…」
と、子供のような文句を言う時雨。
「へー、そうなんだ じゃあいきますか!」
時雨は今度は咲也に引かれて再度海へと向かっていく。

大きな波頭の一歩手前まで来ると
「プールの水と違って動きがあるから 潜るとグルグルすると思うけど
 前に進めば大丈夫だからね…?」
片手でフロートを持っているので
時雨をサポート出来るのは合図と繋いだ手だけ。
「せーの!」
ザンっと音を立てて波打つ海水に突っ込むように前に進み時雨を引っ張る。
「…ぷはっ」
波の中を2〜3歩進んだ先はゆらゆらと海面が揺れるだけの穏やかな海が広がっていた。
「ほらね 大丈夫だった? 時雨」

「ぅあああああぁ…」
しかし時雨からはなぜか悶絶したような声が上がる。
目頭を押さえて涙目になりながら一言。
「鼻に水が… 頭が…」
波のせいで平衡感覚が薄れたのか
咲也の後ろでフラフラになってしまっている。

「…ペットボトルも持ってきてよかった…」
時雨にフロートを持たせてペットボトルの水を口に含むと
「ちゅ… ペロペロ…」
真水で濡らした舌で時雨の目を舐めて海水と涙を流していく。
「くちゅ… ちゅぷ…」
同じように鼻の中も濯いでいく。

「やあっ…咲也… そんな…くすぐったいよ…」
時雨は咲也の行動にいつになく顔を赤く染める。
「鼻まで…別にやらなくて… いいのに…」

「だって…鼻に水が入ると痛いでしょ…? ちゅ…」
顔を赤らめる時雨に微笑み軽く唇に触れる。

広い海の中、ただ二人っきりの誰にも邪魔をされない時間と空間。
見守るのは海鳥と、波の飛沫か。
「くすっ、だーいじょーぶだって ありがとう… …ん」
ぺろりとおかえしに柔らかな咲也の唇をなめる時雨。

「…時雨」
海水で濡れた時雨の前髪をかき上げ
海の青よりも青い時雨の瞳を見つめる。
「泳いでると疲れちゃうから… フロートでゆっくりしよ?」
時雨をフロートに乗せて自分は横にくっついて波に揺られる感じを楽しむ。

時雨をフロートに乗せてそれを押すようにバタ足で海面を蹴り少し沖へと進んでいく。
日焼け止めをしっかり塗ったとは言え
このまま陽に照らされたままでは昼過ぎまで持たないだろう。
咲也は子供の頃から慣れた海で
『日陰で海水浴出来るポイント』を知っていた。
砂浜の間に所々にある切り立った大きな岩場に向かう。
「この奥にね干潮の間だけ入れる洞窟があるんだ
 入口の岩で波も入ってこないからプールみたいで時雨でも泳げると思うよ」
チャプンと目的の岩場にフロートを横付ける

時雨は、咲也に連れられて遊びなれたと言う岩場に足を降ろす。
洞窟の中は太陽の光が幾つもの光の筋を形作っている。
直射日光が当たらないので、ひんやりと柔肌に風が撫でる。
「すごいね、ここ」
洞窟の神秘的な様に、時雨はあんぐりを口を開けるばかりである。
静けさが耳をきぃんと打ち鳴らす。

「今がこのくらいの深さなら… 満潮は夕方くらいかな?」
正確に調べては来なかったが
満ち潮になってきたら波をせき止めている入口の岩から波が入ってくるようになるので
すぐに気づけるので危険も少ない。
中に進むと満潮時にも海水が届かない乾いた岩もある。
咲也はそこに腰掛けて一休みする。

時雨はまた、一休みする咲也をよそに
海水の溜まり場に身体をつけて
ぱしゃぱしゃと遊び出していた。
水深もそこまで深くないようで
時雨も疲れることはなさそうだ。
「咲也ー、ここすんごく冷たいねー」
無邪気な声が反響し、洞窟中を響かせる。

満潮時には毎日新しい海水が入ってくるこの溜まり場の水は
洞窟特有の海藻などを生やすことなく岩場の底が透けて見えるほど綺麗な海水だ。
それでも日が当たっていないというだけでやはり外の海水よりは涼しく感じるのだろう。
「あんまり長く浸かってると冷えちゃうから…気をつけてね?」

「そんなこといってないでさー 咲也も一緒に泳ごうよー」
時雨はおいでおいでと咲也を呼び寄せようと手をブンブン降っている。
普段の時雨と、こうやってはしゃぐ時雨。
彼も、「まとも」に育っていれば純粋無垢のまま成長したのだろうか。
無邪気な笑顔のしたで数々の絶望を知ったことを一体誰が知り得ただろうか。

「はーい」
楽しそうな時雨に釣られて笑みをこぼしながら
岩から腰を上げると時雨までの距離を測って…
タンッと軽くジャンプする。
ザップーンと大きな音と波を立てて
時雨のすぐ近くに飛び込むと
その波をもろに被った時雨を見て
「あははー」
と、笑う。

「あばばばばわっ!?」
飛沫を被った時雨は髪をかきあげてにししと笑う。
「いい度胸だー 咲也ー
 もういっぺん僕が先輩だと教育してやるー!」
がばっと咲也に飛びつけば
大きな水音を立てて咲也にお返しを見舞う。

冷たい海水の中で触れてくる時雨の手や身体の体温が心地よくて
じゃれるようにお互い海水を掛け合ったりまた抱きついたりと
洞窟の中にいつもの影楼で聞くのとは違う無邪気な声と爽やかな水音が響く。

本来なら出会うはずもなかった二人。
今はまるで幼馴染のように一緒にいられる喜びを分かち合っている。
一晩経てば消えてなくなる魔法でも、それが一番の幸せのように時雨も咲也も思っていることだろう。
遊べる分だけ遊んだ後は、二人は少々岩場に背を預け、寄り添っていた。
日はようやくぼんやりと橙の光を放ち始めた頃だ。

「ふぅ… 楽しかったね… こんなに笑ったの久しぶり…」
肩に時雨の体温を感じながらそちらに首を傾げて時雨に寄りかかる。
そのまま視線を上げると
さっきまではしゃいでいた時雨が
少し寂しそうな笑みを浮かべているのに気づく。
「…? 時雨? どうしたの?」

「ん? なんでもないよ? ちょっと疲れただけだから…」
と、咲也に笑って見せる。
本人でさえ気づかないくらいの表情の変化だったのだろうか?
時雨は首を傾げている。

「そう…?」
夕日が映す影のせいだろうか。
時雨の端正な顔に浮かぶ笑顔が先程までの純粋無垢な楽しいだけの笑顔とは違って見えて。
「…そだね お昼もおやつも食べないで遊んでたから疲れたよね… 少し休んだら戻ろうか…」

「うん、もどろう咲也」
そう言って少し気だるい身体を起こして、咲也に手を差し伸べる。
夕日を背に映る時雨は
咲也にとってやはり憂愁を煽るものに見えるのだろう。

「ん…」
時雨の手を取って立ち上がると岩場に上げておいたフロートを海面に戻して。
「はい 乗って? 波打ち際まで戻る時
 ちょっとしたサーフィンさせてあげる」
と、逆に時雨をフロートにエスコートして乗せ、自分は海に浸かり来た時と同じように
フロートを押しながら泳いでいく。
砂浜が近づき時雨が波にもまれた場所まで来るとフロートから手を離し波に任せる。
「落っこちないようにちゃんと捕まっててねー?」
ザーン…ッ
と、大きな白波が背後から襲い
時雨を乗せたフロートを一気に砂浜へと運んでいく。

「ひゃあー、すっごい」
波に煽られたフロートは速度をつけてぐんぐんと浜辺と向かって行く。
爽快だった。
時雨はひと時のアトラクションを味わえば
あっと言う間に浅瀬までたどり着いた。

「どうだったー?
 波に逆らって進むのは大変だったみたいだから
 波怖くなっちゃってるかと思ったんだけど… 楽しかった?」
次の波で浜辺まで流されるようにやってきた咲也は時雨に微笑みかける。

「うん、とっても!」
この上ない笑顔を咲也に見せる時雨。
そのままフロートからおりれば
ばしゃばしゃと砂浜へと上がりぺたりと腰掛けた。

「そか 良かった」
にこっと微笑み、時雨の降りたフロートを引きずり砂浜に上がる。
波打ち際に座る時雨に
「…? ん? 別荘戻るんじゃないの…?」

時雨は咲也の呼びかけに対して
「まだ、いいや」
と、ひとこと返すだけで
じっと夕焼けを眺めている。
ゆらゆらと燃える太陽が時雨の青い瞳を揺らしている。

「ん…」
砂浜に置いていったパーカーを取って来て時雨の肩に羽織らせ
自分も袖を通して時雨の横に腰を下ろす。
「昨年も…こうやって 夕日を見たね…」

「そうだね、一年前とおんなじだ」
ポツリとつぶやく時雨。
「あの時は、いっぱいご飯たべて
 一緒に寝て、わんわん泣いてたっけ」

「…うん… あの時は…
 直前まで時雨と喧嘩してて…
 あんな事件があって…
 時雨が…怪我しちゃって…
 それでここに来たんだよね…」
思い出すと今でも胸が痛くなる光景が頭をよぎって
ふと暗い表情になってしまう。

「ごめん、思いださせちゃったね」
と、時雨が咲也の手を握る。
「でも、僕はあの頃とは違う
 少しは変われたんだ…と、思う」
時雨はどこか照れ臭そうに話して行く。

「うん… 帰ってからは今度は僕が…
 色々あったしね…
 お互い色んなことがあったよね…一年で…」
きゅっと時雨の手を握り返す。

「咲也がいなかったら
 僕はずっと抜け殻だったんだ。
 どうしてこんなことしてるんだろうって
 思うこともあったんだ。
 信じられないでしょ?
 いつもは気ままに振舞っている僕だけど」
心中を吐露するように語る時雨。
「多分、生きてることにさえ
 どうでもいいやってずっと思ってた…
 あの頃はね」

「…」
珍しく多くを語る時雨の言葉に
なんと返答していいのか戸惑い
じっと正面の沈みゆく夕日を見つめながら時雨の次の言葉を待った。

「過去も暗い、未来も暗かった。
 咲也はいつでも僕に寄り添ってくれた。
 信じられなくて突き放したこともあった。
 それでも咲也は僕の行く先を照らしてくれた。
 咲也が逃げた時、僕は怖かったんだ。
 またともしびが消えて行くようで」
時雨は背中を丸める。

「…ごめんなさい…」
時雨の言葉にそれだけを返すことができなかった。
一度逃げてしまった自分の信頼など
そこで無くなってしまっていてもおかしくないことは分かっていた。
今 またこうして手を掴んでいてくれる時雨を
もう二度と離さないと伝えるようにギュッと強く握り締める。

「謝らなくていいよ
 むしろ感謝したいくらいだよ」
時雨は咲也の肩に寄り添う。
「今度は僕が咲也を導くんだ。
 迷わないように、僕の心を救ってくれたように」

「時雨…」
肩に触れる時雨に咲也も首を傾げて
砂浜に伸びる二人の影が重なる。
「うん… 明日は僕の誕生日で… 影楼に帰ったら…
 僕はまた『あそこ』に行かなくちゃいけないけど」
震えそうになる手でしっかりと時雨の手を掴む。
「時雨が見守っててくれるって… 思ったら怖くないよ」

「僕は一緒にはいけないから… ただ見守ることしかできない…でも」
咲也の震える手、ひしと握りしめながら微笑む。
「僕はしっかりと見届けるよ…
 たぶん咲也の一番誇り高いところが見られるんだもん」

「…ん…」
握り返してくれる時雨の手に心強さを感じてふっと微笑んで見せる。
「…『誇り高い』かは、分からないけど…」

またしばらく二人は沈みゆく夕日を眺め、その風景をじっと正面で受け止めていた。
「…へっくし」
不意に時雨がくしゃみをする。
夏といえども気温も下がり体温も下がってきたころだろう。
照れくさそうに時雨は咲也に笑って見せて
「お腹減ってきたね…」
ぐるるとお腹を鳴らす。

「大丈夫…? 時雨」
時雨に羽織らせたパーカーの上から背中を撫で。
「そろそろ帰ってごはんにしよっか?」

「ん!そだね。咲也早くいこ!」
すっくと立ち上がって、時雨は咲也の手を引いて歩き出す。
「咲也の手料理久しぶりだから…ね!」
期待に胸を膨らませる時雨の足取りは、あれだけ遊んでもなお軽い。

別荘に着くとまずはシャワーを浴びて海水でべたつく肌を流し、
リビングでくつろぐ時雨と会話を楽しみながら手早く料理を用意していく。
時雨のお目当ては食後のデザートなので、ご飯は量が多くなりすぎないように済ませ、
食器を片付けるとケーキの箱を持って昨年と同じように
2階の咲也の部屋のベッドでゴロゴロしながら食べることにする。

時雨のお目当てはやはりこちらだろう。
甘いものは三度の食事よりも大切な彼にとっては、この時間が待ち遠しかった。
「咲也ー、今日はなにがあるのかな?」

「えっと 昨年ここのケーキを時雨が気に入ってたって三田さんに話しておいたから
 昨年とおんなじの… ほらこのシュークリーム好きだったでしょ?」
と、時雨にシュークリームを手渡す。
「僕はこのアップルパイが好きなんだー」
と、トロトロリンゴとサクサクのパイ生地の相性のいいアップルパイを取り出す。

「うん!これこれ!
 このシュークリームの甘さったら最高なんだよね」
ごそりと箱の中からお気に入りのそれを取り出してうっとりと眺める。
香ばしい生地の中には漏れ出さんばかりのホイップの詰まったシュークリーム。
「いっただきまーす」
ガブリ、大きく口をあけてシュークリームをまずは一口。

時雨が大口でシュークリームをほおばるのを微笑ましく眺めながら自分もアップルパイを口に運ぶ。
サクサクのパイ生地に少し喉の渇きを覚えてアイスティーのペットボトルを口にする。

「ん…ん!んんんん〜!」
口いっぱいに広がる甘さに、時雨はぐっとガッツポーズをして、喜びを表現する。
「くうー!糖分が染みる〜!」

ふっと昨年はケーキを半分こずつしながら食べていたことを思い出し
「時雨 僕にもシュークリーム一口頂戴? ぱく」
ガッツポーズの片手に残っていたシュークリームをぱくつく。

「あ………」
時雨がしばらく舌鼓を打っている間に、横取りされる形でシューを食べられてしまった。
しばらく呆然としていたが…
そのうちフルフルと震えだす時雨。

「んー… カスタードクリームのも美味しいけどここの生クリームの甘さは時雨好みって感じだよねぇ〜
 …って どうしたの? 時雨」
シュークリームをもくもくと飲み込んでから時雨のぽかんとした顔を見つめる。

「咲也…」
時雨の表情は怒りを通り越して、顔面蒼白といったところか。
何より一番重い罪を犯したといわんばかりに咲也を見つめ
「返してもらうよ…咲也…」
がばっと咲也を押し倒し、咲也の唇を食らう勢いで口づけする。

「え…ぇ…? 怒ってるの?
 時雨にもアップルパイあげるから…
 って うわ!」
焦った咲也が謝る暇も与えず時雨が襲い掛かってくる。
「…ん…ぅ ん…」

咲也の口内の生クリームを舐め尽すかのように舌を差し入れ深く口づける。
「ちゅく…ちゅ」

「んん…ぅ …ふ…ぁ… はぁ…っ」
息苦しそうに顔をしかめていた咲也の顔がだんだんと頬に赤みが差し
零れる吐息にも甘い色っぽさが含まれていく。

「…はぁ」
時雨がようやく唇を解放した頃には、すっかり骨抜きになった咲也が出来上がっていた。
「だめだよ、咲也…
 そんな甘ったるい顔してたら…」
やや強引に咲也の服をはだけさせていく。
薄い咲也の胸板を赤い舌がレロっと線を引く。
「もう『食べる』しかできないや」

「ん… だって…時雨のキス…
 気持ちいいんだもん…」
影楼に居る時と違って浴衣ではなく
パジャマとして着ていたシャツなので
服を脱ぐのがまどろっこしく感じながら
肌蹴た胸を時雨が舐めればビクンと身体を震わせる。

咲也の首筋に顔をうずめながら
手でさわさわと腕や、わき腹を撫でていく。
みずみずしく吸い付くような肌をちゅうっと甘噛みすれば
何とも言えない高揚感に包まれる

「んッ …時雨」
時雨の手に脱がされるままシャツを脱ぎ
自分も時雨の素肌に触れたいと
組み敷かれた姿勢のまま時雨のシャツのボタンに手をかけて外していく。

「咲也…」
シャツを脱ぎ終えたのち
時雨は咲也の胸とを合わせて密着する。
やや早い心拍が伝わってくる。
「あったかい…」

「ん…」
時雨のぬくもりを全身で受け止めるように
時雨の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめ目を閉じて微笑む。
「時雨…あったかくて 気持ちい…」

この世界に二人だけしかいないような
時雨はそんなふうに感じられた。
ゆっくりと身体を下へとずらし
咲也の身体を味わうように、舌で愛撫し
指で敏感なわきの下や乳首をなぞる。

「んぁ…ッ は…ぁん」
影楼に居る時は時雨としていてもやはり周囲の部屋が気になって
あまり大きな声を上げない咲也だが
昨年と同様、ここに来ると『二人きり』ということに安心するのか
最初から我慢することなく甘い声を漏らす。

「はっ… …やらしいんだー…」
甘ったるい声を臆面も隠さずにあげる咲也に
くすりと微笑んで軽口をたたく。
咲也の下半身も、もう興奮からかとくんとくんと脈打っているのがわかる。

「…ぅ… だって…ここに居る間くらいは
 時雨のことだけ考えて…
 時雨だけ感じてたい…」
かぁっと頬を染めながら時雨を見つめる。

照れる咲也の言葉に、時雨はごくんと生唾を飲み込む。
(うわあ… すごく色っぽい…)
不覚にもどきりとしてしまったのは
咲也の瞳のせいなのか、声のせいなのか。
「そっか、ならいっぱい感じて…
 どこがいい? 咲也の感じたいところ」

「…っ え…っと…」
言ってから恥ずかしくなっていたのに
追い討ちをかけるように時雨からどこがイイかと問われれば
更に顔を真っ赤にして。
「…時雨の…してくれる事…全部
 気持ちいいから…
 だから…時雨の好きに…して…」

咲也のお願いにこくりと首を縦に振れば
咲也の屹立を布越しでさわさわと撫でていく。
先端から、温かい先走りが染みを作っている。
「あは、もう濡れちゃってるね」

「んっん… ふぁ」
まだ胸の突起や脇腹など上半身を軽く愛撫されただけなのに
相手が時雨であればどうしようもなく感じてしまっていて。
布越しのもどかしさにもじもじと両足を擦り付ける。

「まだまだ、我慢しなきゃ」
屹立を布越しで触ることはあっても
大きな刺激は与えない。
白い太ももの内側や付け根に吸い付いては舐めて、じっくりと高めていく。

「うん… まだ…終わりたくない…
 もっと…時雨を感じさせて… あッぁあ ん…」
時雨の与えてくれる甘い刺激にビクビクッと腰が揺れる。

細い腰が揺れるたびに、屹立が苦しそうに張りつめているのがわかる。
時雨が口でパンツを器用にずらせば、プルンと小ぶりの屹立が勢いよく跳ねる。
時雨はそれをまじまじと眺めた後
先端をちょっとだけ指で触れてみる。
透明なカウパー液がねっとりと絡みついてくる。

「ひゃ…っ んぁ んん…ッ」
パンツがずらされ時雨の指が直に触れるとそれだけでビクンと屹立が震え
先走りが溢れ出すのが感覚で分かる程感じてしまう。

「すごくおいしそう…」
まるでシロップのような粘り気のカウパーが屹立を伝っていけば
それを舌でちょっとだけ受け止めてみる。
それだけで、咲也の身体がびくんと跳ねる。
(こんなに感じて、どうなっちゃうんだよ咲也)

「あッ ―――…ッ」
いつも影楼で時雨にも他の客にもされていることなのに
媚薬を飲んでいる時のような感度に自分でも驚く。
思わず手で口を塞ぎ喘ぎ声を堪える。

「感じすぎ… 持たないよ身体…」
ここまで咲也が乱れるのも初めてで
本当に壊れてしまうんじゃないかとこの先が不安になるも
「ちゅっ…ん…ふう」
屹立にあいさつ代わりのキスを施し
裏筋をゆっくりと舐め上げる。

「んんっ…ぅ… へい…き だから…
 ああッ あん」
もっと刺激を… 快感を感じさせて欲しいとねだるように時雨の黒髪に指を絡める。
「あッ あん 時雨 ふぁ…ッ」

「ぢゅ…ちゅる…」
先端からあふれる蜜を、丹念になめとってから、ゆっくりと屹立をくわえこんでいく。
はち切れそうなそれは、かなりの熱を帯びていて火照ってしまいそうだ。
「くぷ…ん、ちゅ…んあ」

時雨の舐める音すらも羞恥をそそって感度を上げるようだ。
「あ…んッ やっ んぁ…ぁ…ぁああ…あッ」
時雨のテクもさることながら
感度の増している今の咲也には
イクのを我慢しながら、時雨を感じ耐える数分が永遠のように感じられた。

咲也が耐えている表情を見て、すぐにイかせたくもなったが、もっとその表情を見ていたい。
時雨も咲也の状態を見計らいながら、刺激の強弱をつける。
限界を超えた咲也はどうなってしまうのか。
見てみたい。

「はぁ…ッ あ ぁあ 時雨っ
 んや…ぁッ ぅ…あッ」
耐えられずイってしまいそうに高ぶると
時雨の口からゆっくりと抜かれ先端を舐めるような弱い刺激に変わる。
じわじわと射精感が収まってくると
また深く咥えこまれ激しくしゃぶられる。
「好きにして」とは言ったが
今日の時雨は何だか意地悪なような気がして涙と汗でぐしゅぐしゅになった顔で時雨を見つめる。
「はぁ 時雨 しぐ…れ もう…ダメ あ ぁん」

もう耐えているというよりは、こちらに主導権があるようだ。
もうひと押しもすれば間違いなく果てるだろう。
まだ意地悪く刺激を弱めている時雨は
「だめ? もうイきたい?」
と、わざと尋ねてみる。

「やぁ…あぁ…ッ 時雨ッ
 あ ぁん ダメ…ぇ…ッ ぁああ…んっ」
また刺激が弱まりイくタイミングを逃してしまった。
それでももう限界に近い屹立からは先走りではないモノが
少しずつピュルっと溢れてしまっている。

(もうそろそろ…)
口の中に精液の味もしてきたところで、一気にくわえこんでじゅるじゅると吸い上げていく。
とつぜん突き落すような快感はどれほど快感で、苦痛なのだろう。

「あ…ッ?」
時雨のそれが今までのものと変わったことに気がつく。
相手を一気に快楽の底に堕とす時雨のテクニックの全てをかけたフェラだ。
一度その快感の味を知ってしまったら忘れられる者は居ないだろうそれを
限界の屹立に与えられる。
「あぁぁ! ぁあ…ッ
 やっぁあ 時雨 時雨ッ んぁぁッ」
苦しいほどの快感にクラクラする頭を振って耐えようとするが
咲也程の恥ずかしがり屋であっても痴態を気にする自我を失う程の快感の波に襲われる。
「アッ ぁぁああ…ッあぁ …ぁぁあーー!」
時雨に「イク」と知らせることもできないまま
ビクビクンっと全身を震わせながら
時雨の口内に我慢の限界を吐き出す。

「…っ! ん…くぷ…うう」
もはや悲鳴だ。
射精するだけでここまでふりきってしまうのも
そうはお目にかかれないだろう。
溜めに溜めた精液は勢いよく放たれれば
受け止めきれずに口の端から白濁がこぼれてしまう。
喉に引っかかるような濃い精液を嚥下して
咲也の頭を撫でる。

「はっ はぁ… は…」
くったりとベットに体を投げ出して苦しそうに荒い息を吐く。
髪に触れる時雨の手に気がつき涙で濡れた瞳で時雨を見上げる。
「…時雨… 今度は時雨も…
 一緒に気持ちよくして…?」
時雨の口の端に残る自分の精液をペロリと舐めると
時雨に深く口付けながら時雨の手を孔へと導く。
イったばかりだというのに身体の疼きを止められなかった。

咲也の蕾に指をなぞらせれば
濡れそぼった腸液が脈動に合わせて滴り落ちる。
くちゅりと指を一本胎内に入れ込むとそれだけで
追い出すように腸壁が締め付ける。
「エロすぎ…だよ咲也」

「ん… あ ぁ…んッ」
前戯というには激しい屹立への愛撫と
長く焦らされるような感覚からの射精による快感で
まだ触れられもしていなかった体内もじっくりと弄られたように時雨を欲して疼いてしまっている。
時雨の細い指が入り込めばゾクゾクと背筋を震わせつつ
物足りなそうに指を締め付けてしまう。
「…や… だってぇ
 時雨が…意地悪…するんだもん… んぁ」

「意地悪…? ひどいなあ
 僕は咲也を限界まで気持ちよくさせたいだけなのにね」
クスリと苦笑いしながら指を抜いて
ぺろりと孔を舐める。
ほぐすように舌をねじ込んでは
ゆっくりと内股にキスをし
咲也の熱を高めていく。

「ふぁ…ッ ゃあ ぁ…あ」
時雨の舌が出入りする感触にふるふると頭を振る。
もうそんな風にほぐさなくても十分咲也の孔は濡れていて
時雨を―――時雨の屹立を―――
受け入れられる状態であることは
指を入れた時点で時雨には分かっているはずなのに
こうしてまた焦らすような愛撫に
感じながらも切なさが募るような苦しさを感じる。

「うわ…咲也のお口
 こんなに欲しそうにクパクパしてるよ…」
咲也の気持ちとは裏腹に何度も何度も嬲るように愛撫を繰り返す時雨。
「咲也のこっちはものすごく
 欲しそうにしてるけどどうなの? 咲也…?」
――本当に意地の悪い質問だ――
時雨もしっかりと実感しながら咲也に問うてみる。

「…―――ッ」
時雨の言葉にかぁぁっと紅潮していた頬が更に赤くなる。
恥ずかしがりの咲也がそんな質問に
まともに答えられるはずがないことだって時雨は知っているくせに…。
「う…ぅう… 時雨の…意地悪ぅ…」
涙目でチラと自分の脚の間に顔を埋める時雨を睨むように視線を向けるが
その状態を直視するのも恥ずかしくて目を閉じてしまう。
「…も ほぐさなくて…平気 だから…」
言いづらそうに小声が更に小さくなりながら
「…時雨の…入れて…」

「そっか…じゃあ」
自らの屹立を孔にあてがい、先端で滑らせるようにまだじらす時雨。
――まーだあげないよ――
と、言わんばかりに執拗に咲也を悦楽の苦しみから解放しない。
――しばらくして一気に屹立を咲也の体内に埋め込んでいく。
本当に意地の悪い「不意打ち」だった。

「ん… ぁう はぁ… は 時雨…んぁ… あッ」
ようやく時雨の屹立があてがわれたかと思ったのに
今度は女性の「素股」のように挿入せずに
表面を滑らせるように動かされれば
咲也の屹立と時雨の屹立から溢れた蜜が混ざり合い
ぬるぬると敏感な部分が擦られて
さっきまでの小声とは一転して嬌声を上げてしまう。
―――気持ちいい…
 でも 足りない もっと もっと…
 時雨が欲しい―――
快感に喘ぎながらそう願っていると不意にそれが叶えられる。
「あッ ぁぁあ…あんッ」
一気に体内に押し込められた質量をビクンと背を反らせて受け入れる。

「はっ…トロットロ…
 ローションでも仕込んでたみたい…」
体内の感触に思わず目眩がした。
腸壁のやわらかさにもかかわらず
程よく締め付けて離さまいとするそれは
まさに名器そのものだ。
最奥まで突っ込んでいけば
時雨にも苦痛に近いほどの快楽が襲い掛かる。
「あっ…あ…なに…これ」
快楽が全身に染み渡る。
脳内がちかちかと明滅しそうな感覚に、本能的に「危機感」すら覚えてしまう。

「あぁん! あッ しぐ…れッ
 時雨 ぁ はぁ は はぁッん」
やっと待っていた快感が
――時雨の屹立による快感がもたらされ
それだけで嬉しくて涙が溢れる程に感じる。
今はもう何も考えずにただこの時雨の与えてくれる快感だけに溺れていたい…。
時雨の動きに合わせて溢れる声に
たまに時雨の名前を混ぜる以外何も出来ない。

時雨も無心に腰を振って、咲也の孔を余すところなく味わおうとする。
快感がこれほど気持ち良くて、苦しい。
時雨にとってなかなか体験できないことだった。
――やばい、もうっ――
そう時雨がとっさに感じた瞬間に
ぴたりと動きを止めてギュッと咲也に抱きつく。

「ふぁぁ…ッ ぁん あ
 はぁ 時雨 あ あぁッ しぐ…ぁあ…ッ」
何回かドライでイキながらも
時雨の動きに合わせて腰をくねらせる。
イってもイってもまだまだ襲う快感の波に完全に溺れ
全身が性感帯になったように体中で時雨を感じていた。
「あぁ…あ…ぅ 時雨
 あん ん… はぁッ っ…ぁあ 時雨ッ」
時雨の屹立が自分の体内で限界を迎えようとしているのが感覚で伝わってくる…。
時雨の熱を欲するようにキュウッと締め付けてしまう。

「もう、何にもしなくても…気持ちいい…」
時雨も快楽から今にも涙を流してしまいそうだった。
もう少しでも動けば果ててしまう。
そうでなくても咲也の脈動がそうさせてしまうだろう。
「咲也!咲也ぁ!」
振り絞ったような絶叫とともに再び身体を動かせばびくびくと痙攣が止まらない。
「ふあああああ!あああ!」
まるで赤子のような声で時雨は咲也の中で白濁を解き放つ。

「…はぁ は うん…時雨… はぁ」
ぎゅっと時雨を抱きしめ返し動きを止めるが
開いた脚はガクガクと痙攣し
孔も中もヒクヒクと収縮を繰り返し
時雨を刺激してしまうのを止められなかった。
「あッ あん はぁ ぁ…ッ
 時雨っ ぁあ 時雨ぇ…」
再び動き出した時雨に最高潮の快楽へと導かれる。
「ぁあッ…ぁぁ ぁあんっ!! ぁぁあーッ」
体内に広がる熱に溶かされ時雨と一つになる感覚を感じながら
咲也も白濁を吐き出し
最高に気持ちのいいイクという感覚を味わう。

身体が溶けるという感覚。
全身がマヒしてどろどろの液体になっていくような不思議な気分。
願わくはこの時間がいつまでも続いてくれと願うほどの圧倒的な快楽。
しばらく時雨はぐったりと咲也によりかかっていたが
やんわりと咲也の身体を抱く。
「…ほんとに、ほんとに死ぬかと思った。
 一瞬天国にいたよ…」

「は… はぁ はぁ… は…ぁ」
イったハズなのにまだビクビクと時雨を抱きしめる腕が震え
余韻というには気持ち良すぎる「余波」に小刻みに身体を震わせ
まだイク感じを止められないまま
「うん… 時雨… 時雨ぇ」
泣きはらした目で時雨を見つめる。

「どうしよう…
 もうこんなんじゃ 咲也とじゃないと
 気持ちよくなれない…かも」
こんな凶暴な快楽を知ってしまえば
ほかに与えてくれる人間など考えられない。
時雨は少し不安で、それ以上に嬉しかった。

「…ん 本当に…そう出来たらいいのに…」
くすっと苦笑いしながらギュッと時雨を抱きしめる腕に力を込める。
――他の誰にも時雨を触れさせない場所に連れていけたらいいのに――
そんな儚い想いを願わずにはいられなかった。




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