第二十八話

「招かざる客」






特にイベントのない11月。
遊郭にやって来るのは常連客ばかり。
例に漏れず今日も一条様がやってきて
時雨を買っていった。
咲也は見世でぼーっと待機していると
女将さんから呼び出される。
指名してくれた『上客』の名前を聞くと
表情が曇ってしまう。
「…いらっしゃいませ 二宮のおじさま」
ロビーで待つその客に深々と頭を下げる。

咲也の視線の前には
咲也の『上客』であり
かつて咲也の父親の部下だった二宮がいる。
にやにやと見世で男娼たちを値踏みしながら…
咲也が来るのを待っていた。
「やあ…咲也、元気にしてたかい?」
ポケットに手を突っ込んだままに
咲也に語りかけるその表情はどこか歪んでいる。

「はい… お陰さまで…」
月に2〜3度やってくる二宮と
当たり障りのない挨拶をしつつ
咲也の部屋へ案内する。
他の客に買われる時も
喜々とするわけでもない咲也だが
二宮が相手の時はどこか緊張の色と
逃げ出したいような重苦しい表情を浮かべる。

「ははっ、そうかい。
 私にはいつも暗い表情に見えてしまうんだがなあ」
咲也の気持ちを知ってか知らずか
思ったままの感想を述べて、咲也についていく。

『嫌われている』という自覚がないのだろうか…
はぁっと小さくため息をついて和室にお通しする。
二宮はヤル前に酒を飲むのが定番になっているので
特に確認も取らずいつものお酒を作って
座椅子でくつろぐ二宮に差し出す。
「どうぞ…」

咲也から渡された酒を一度に飲み干し
つまみを頬張れば二宮がおもむろに口を開く。
「最近事業がうまくいっててねぇ
 まだまだ周りは不景気だというのに
 顔がつい緩んでしまうよ」
誰に言うのでもなく独り言のように呟く。
暗に咲也をこれからも買い続けるのだと
言っているようなものである。

「そうですか…」
春に初めて自分を買った時は
父の事業が潰れたせいで無職になって
妻子にも逃げられていた二宮だが
その後トントン拍子に再就職が決まり羽振りも良くなり
今ではこうして咲也を買えるほどの余裕が出来ていた。
機嫌がいい二宮は咲也にも
昔のような優しさを見せるので少し安心する咲也。

さらに酒をあおる二宮の顔は徐々に紅潮し
たちあがると咲也を押し倒し布団の上で組敷く。
見下げるその表情は欲情でドロドロに渦巻いている。
咲也の着物を荒っぽく肌蹴て薄い胸板を撫で回し
首筋をべろりと舐めていく。

「ん…っ ぁッ」
荒っぽい前戯はいつものことで…。
お酒の匂いがする舌で陵辱されていく。
目を閉じてその顔を見ないようにしながら『接客』していく。

二宮は咲也が目を合わせないのが気に入らないのか
顎をつかみ真正面を向かせ。
「いつもいつも咲也は私を見ようとしないね
 全くもってつまらないよ」
少し咲也の口が空いた隙に
唇を奪い舌を捩じ込んでゆく。

「そんな事… あッん… ちゅく ごく…ん」
誤魔化そうとした言葉を唇を塞がれ
お酒の味のする唾液をたっぷり注ぎ込まれ
嫌々ながら飲み込む。
『つまらないなら僕を買わなきゃ良いのに…』
と、頭の片隅で思いながら苦い口づけを続ける。

「ふん…そんなことないのなら
 しっかり見せてもらわないとな…
 咲也のいやらしい姿をな」
咲也の口内を一通りむさぼり尽くしたあとは
着物を手荒く脱がして肩口から
ヌルヌルと舌を這わせていく。
ふるふると震えるように喘ぐ咲也をよそに
薄い胸板を揉みしだき、腋を舐めあげていく。


「はぁ… ゃ… んんッ」
気持ちでは拒絶していても
『感じる身体』に『教育』されてしまった身体は
どうしようもなく二宮のいやらしい手つきに
震えるように感じ反応してしまう。
『気持ちいい』と思っていないのに
屹立は先端を濡らしていく。


二宮は布越しに咲也の屹立を握ると
上下に扱いていく。
さらに乳首を摘まんで伸ばし
咲也の反応を楽しげに観察していく。
「流石、身体はよくしつけられているなあ。
 『淫乱』と名高い『彼』に仕込まれただけはある
にやにやと痴態を眺めながら
屹立への刺激をさらに強めていく。


「ふ…ぁ…っ なんで…知って んぁっ」
二宮が自分の『教育係』が
時雨だと知っているはずがないのにと
怪訝に顔をしかめるが
屹立への激しい刺激にビクンビクンと脚を震わせる。

「さあ?なぜだろうね…
 もっとも…『ここ』にいれば
 彼の噂なんて自然と耳に入って来るからね」
二宮は咲也の反応を見て一旦手を止めて
咲也の顎をつかむ
「咲也だけが気持ちよくなっても仕方ないだろう。
 咲也もお客様のご奉仕するんだ」
二宮の股間は苦しそうに布を押し上げている。


「…はい… ちゅ… くちゅ」
自分にだけ執着を持って『ここ』…
遊郭に通ってきていると思っていた二宮が
他の男娼にも興味を持っていることに
不安になりながら
二宮のズボンを脱がせ屹立を口にする。
二宮に頭を押さえつけられ
初めから容赦なく激く
舌を絡める暇もなく出し入れされる。


「もっと舌を絡ませろ、吸い上げろ咲也。
 粘膜を使ってご奉仕しないとな」
ぐちゅぐちゅと咲也の口を性器のように扱う二宮。
咲也の苦しさも知らぬ存ぜぬで
腰を振り喉に屹立を突き立てていく。


「ん… んぐっ んん ちゅぷ… じゅる」
二宮の先走りと咲也の唾液が
混ざった水音が部屋に響く。
二宮の指示に従うように必死に舌を絡め裏筋を舐め
歯が当たらないように咥え頬の内側で擦り上げる。


「くっ…そうだ咲也…
 やはりいやらしい姿がそそる」
腰を震わせながら咲也の口に
屹立の匂いを刷り込んでゆく二宮。
びくびくと屹立が脈打ち絶頂が近いことを報せる。
「咲也っ…口を開けろっ
 まだ飲むんじゃないぞ、くあああっ」
青臭い精液が咲也の顔にかかり
口内へと注ぎ込まれていく


「んっ あ…ッ んぁぁ」
喉の奥から屹立が引き抜かれ顔射される。
口を開けて半分位は舌で受け止めるが
鼻や頬がドロリと白濁で汚れる。


「く、ふふ…なんて顔だ咲也。
 いやらしくていやらしくてたまらないね」
咲也を汚すのが楽しくてたまらないと
言わんばかりにくつくつと笑う。
「しっかり味わって飲む様を見せるんだ」
咲也の精液で濡れた顔を卑下た目で
見下ろす二宮が告げる。


「ごく …はい ペロ… ちゅる… ごくん」
二宮に穢されて泣きたいような気持ちで
口で受け止めた白濁を飲み込み
顔についた白濁を指で掬い舌で舐めとっていく。


「美味しいかい咲也…」
しっかり飲み干した咲也の頭を撫でていく。
二宮の屹立はまだ収まりそうもない。
二宮は咲也を四つん這いにさせて
咲也の双丘をわしづかむと
秘部をぺろりと舐めあげていく。


「はい… おいしい…です… あッ ひゃんっ」
美味しいとも思っていないがそう答えるしかない。
いきなり体位を変えられ孔を舌がなぞれば
やはり『感じる身体』が反応し甘い声をあげてしまう。


秘部に舌をねじ込みほぐしていく二宮。
咲也を感じさせているという実感が
さらに欲を増幅させていく。
色白の咲也の双丘をピシャリと平手で叩き
「もっとおねだりしないか、気のきかん奴だ」
と、咲也を戒めていく。


「あっ はぁっ
 に…二宮のおじさまぁ…
 もっと…ぉ… んんっ
 ぐちゃぐちゃにしてください ふぁッ」
スパンキングにビクンと全身を震わせ
腰を振ってお尻を二宮の顔に押し当てる。


「咲也 腰をあげなさい」
一言告げて屹立を咲也の秘部に塗りつけて焦らす。
そして一気に屹立を咲也の体内に埋め込んでいく。
「くうっ…ほぐしてもこのしまりか…淫乱め」


「ん… ぁあッ ぁあああぁぁん…ッ」
舌でほぐされたのは入口だけで。
中は慣らしもなく侵入してきた大きな屹立に
シーツをぎゅっと掴んで身体を震わせる。


パンパンと乾いた音が鳴り響く。
快感を貪るように獣のように咲也を犯していく。
「く、はっ…咲也を買えるのは
 この一時だけとは
 なんともやりきれないなっ …くあっ」
前立腺を突き上げえぐり
乳首をちぎれんばかりにつまみあげる


「ああぁあっ はぁんッ ゃあ…ッ んぁぁっ」
激しい動きに慣らされていない腸壁は擦り上げられ
痛みを訴えるように涙をこぼし
前立腺を突かれると『感じる身体』は
快感を感じ痛みと快感が一緒になって
咲也を攻め立てる。


二宮は声だけでは満足できないのか
体位を変えて咲也の顔が見えるようにする。
咲也は二宮から顔を反らしているようで
二宮はつまらなさそうに咲也を犯す。
「またそうやって咲也は、いや、もういい」


「ゃぁあッ ひぁああ…っ」
身体をねじるように屹立を挿し込まれたまま
体位を変えられれば痛みに悲鳴に近い声を上げる。
何かを掴んで声や痛みや快感を
我慢したいのに掴める物がなく
手が宙を泳ぎ仕方なく二宮の肩を掴んで
顔を横に振る。


咲也の悲鳴さえも楽しむように
一方的な行為を続ける二宮。
苦痛で歪む咲也の顔を見るなり
「やはり次は咲也のお気に入りの
 『時雨』を買うことにしようか。
 彼ならば、『淫乱』の名に恥じず
 私を満足させてくれるだろうね」
まるで咲也の足元を見るかのように吐き捨てる。


二宮の言葉に声が詰まる。
まさか時雨を買うだなんて…。
「やめ… 僕だけ…を…っ
 なんでも…します…からっ
 時雨には… んぁッ」
懇願するように二宮を見つめ。
時雨が穢されるくらいなら
自分がどんなプレイでも受ける
覚悟であることを告げる。


「ふん…咲也はそこまで
 時雨がお気に入りなんだね
 ますます気になる」
懇願する咲也に主導権は自分にあると
言い聞かせるように咲也の顎を指で上げて
「ならば、もっと喘げ、ヨガれ、満足させてみせろよ」
ガツガツと容赦なく孔をいたぶっていく。


「はぃ… あっあっ…あっ ぁんッ ぁぁん はぁ」
痛みの和らいだ孔で二宮の屹立をきゅぅっと締め付ける。
二宮の先走りと咲也の腸液で濡れた孔は
ぬるぬると咲也にも二宮にも快感を与えていく。
咲也は精一杯『二宮に抱かれている』ことを忘れて
快感だけに意識を集中して喘ぎまくる。


「そうだ、咲也。
 浅ましい姿がたまらない。
 なにも考えずに快楽に浸ればいい」
二宮は喘ぐ咲也に悪魔の囁きを吐き出す。
「お前のお気に入りの時雨は
 本当に咲也のことを想っているのか?
 あの『淫乱』が」


「は…ぁ やだ… 言わない…で… んぁぁッ」
二宮の言葉を聞きたくないというように首を振って。
二宮の肩を掴んでいた腕を首に回し
自分から口付けて二宮の言葉を塞ぐ。


口づけを受け止めて咲也の舌に絡ませたあと
再び二宮は告げる。
「咲也、時雨は咲也を
 ただの『ラブゲーム』の相手としか見ていない。
 きっと他の男娼たちとも
 夜な夜な勤しんでいるんだろうな」
ニヤリと咲也を見つめて咲也の反応を伺う。


「ちゅく… はぁ は…」
二宮の言葉にもう何も言い返さない。
時雨はお客様が泊まりの時以外は
自分と一緒に寝ている。
『ラブゲームの相手』かもしれないけれど
他の男娼の子とシテいないことは
咲也だけが知っていればいい。


「よく考えてみることだな…咲也…くっ」
二宮の腰がぶるりと震えて
咲也の孔に白濁を注ぎ込んでいく。


「ひぁんっ あぁぁっぁああッ」
身体の中心に熱が広がり
咲也もビクンと全身を震わせ果てる。


じゅぽんと屹立を引き抜いて、ふうと一息つく二宮。
「まだまだ夜は長いぞ咲也
 次は道具でも使ってよがらせてやろうか」
二宮は咲也をとことんまでなぶるつもりのようだ。
握られたバイブやローターに咲也の白濁を絡ませていく。


「はぁ はぁ はぁ… あ…ッん」
ぐったりと力の抜けた身体で
乱れた息を整える間もなく
二宮の次のプレイが始められるのを
涙で潤んだ瞳で見つめる。


「ふふ…たっぷり楽しませてやるさ…
 咲也は私にとっての『幸運』だからな」
卑下た笑いと咲也の悲鳴に似た喘ぎが
途絶えることはなかった。









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